今回は「腹腔内腫瘤」についてご紹介いたします。
腹腔内腫瘤とはお腹の中に存在する臓器(肝臓、胃、脾臓、腎臓、腸管、膀胱など)、組織を起源とする原発性腫瘍、あるいは転移し、腹腔内で増殖した腫瘍をさします。
近年、QOLが向上してきたことで、動物たちは非常に長生きになってきました。それに伴い、人と同じように腫瘍の病気が増えてきています。近年では犬の約半数、猫では約1/3が悪性腫瘍によって命を落としていることが、疫学調査で明らかになっています。
からだの表面にできた腫瘍の場合、外見変化やスキンシップで発見されるケースが多いため、早期発見につながりやすくなります。しかし、腹腔内腫瘍の場合、何らかの異常を伴って診察時に発見されるため病状が進行していることが多いです。
また、他の疾患の検査時や健康診断で偶発的に発見される場合もあります。
本症例も全くの無症状でしたが、健康診断時に偶然発見となり、充分にインフォームドコンセントを行ったうえで摘出しました。こちらの記事では実際の腹腔内腫瘤の摘出症例をお伝えします。
1.基本情報(患者情報および状態の所感)
- 犬種:チワワ
- 年齢:14歳6ヶ月
- 性別:去勢雄
- 体重:2.7kg
- 主訴:健康診断時に腹腔内腫瘤を認めた。
2.実例(検査~手術~術後までのプロセス)
検査所見
身体検査
・体重2.7g 体温38.0℃ 心拍数114回/分
・他臨床症状は観察されず。
腹部超音波検査
・右腎臓尾側、回盲部に混合エコー性の腫瘤(1.3cm×1.5cm)を認めた。
CT検査
・回盲部に軽度に造影増強効果を示す腫瘤を認めた。
細胞診検査
・診断に有意な細胞所見は得られなかった。
以上より回盲部(特に盲腸を原発とした)腫瘤と判断し腫瘤切除を実施した。
手術所見
- 腹部正中切開後、盲腸部に硬結した腫瘤を確認。
- 周囲リンパ節の腫大、播種所見は観察されなかった。
- 盲腸切除術を実施し、定法通り閉腹。
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術後所見
術後の経過は良好であり、術後2日目で退院とした。
3.最後に
高齢犬の消化管腫瘤には様々な腫瘤が考慮されます。
病理検査結果より、消化管間質細胞腫瘍、平滑筋肉腫などが疑われました。
犬C-kit免疫染色の結果、GISTの可能性が第一に考えられます。
完全切除により良好な経過を得られることが多く、定期的な観察が推奨されます。